ろーだいありー

ゲームレビュー・ゲームプレイ記録、『メガテン』考察、本の紹介、音楽レビュー、写真、映画評など。

『市販本 新しい歴史教科書』(2001年発売)を批判する。※追記あり

『市販本 新しい歴史教科書』(2001年発売)を批判する

 

今、『市販本 新しい歴史教科書』(扶桑社)を批判的に取り上げる理由とは?

今回は、2001年発売(教科書として使われたのは2002年度から)の『市販本 新しい歴史教科書』(代表執筆者・西尾幹二/扶桑社。現在は絶版)を批判的に紹介しよう。

なぜ今この本か? というと、この「ろーだいありー」のメイン企画「『超國家機関ヤタガラス』はなぜ怖ろしいのか?」でも、今後これを取り上げるつもりだからである。それと、今も脈々とこの教科書は存在し続けている(これを受け継ぐ教科書は今も使われている)ということに危機感があるから。

私の知識量では、とてもこの本のすべてを批評・批判することは出来ないので、この『新しい歴史教科書』を批判した本、他の歴史書なども参照しつつ、主に「第四章・近代日本の建設」以降の記述と、「神話」に関する部分、この本の序文と結びの文章を批評・批判しようと思う。

そもそもこの教科書はなぜ作られたか?

この『新しい歴史教科書』は、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」。1996年に結成された)が作った、中学生用歴史教科書である。このグループの主な主張としては、至極簡単に言ってしまうと「『自虐史観』(造語)を廃し、『自由主義史観』(これも造語)という、子どもたちが日本に誇りを持てるような歴史観を教科書に載せよう」ということのようだ。

ただ、この教科書の執筆者に「歴史研究家・歴史専門家」は一人も含まれていないのは、歴史教科書としては致命的であろう。実際、検定で多くの箇所が修正されたとか…(そのわりには、検定通過後の本でも、初歩的な間違いが多いと、批判本では指摘されているが)。

この教科書の問題点とは?

この教科書の問題は、「子どもたちに『日本に誇りを持たせよう(愛国心を持たせよう、日本人としての自覚を持たせよう)』とするあまり、歴史の捏造などを平気で行ったり、『日本スゴイ』ばかり強調して他国(特にアジア諸国)を貶めたり、自国(日本)中心過ぎたり、反米路線だったり、日本の戦争は全て防衛で正しかったとしたり、日本の『戦争での加害歴史』を少ししか描かない」などだろう。そして「神話を事実のように書いたり、天皇を中心とする、『皇国史観』(戦前や戦中の、歴史教科書の歴史観はこれである)を元にしている」点も問題。

そもそも、「愛国心」というものを、「教科書を使って子どもに押し付ける」こと自体が危険である。

この教科書については、韓国や中国など近隣国から批判・抗議が相次ぎ、国内でも不採択運動が広まったことでも知られる。結果、採択率は低かったという。

では、ここからはこの『市販本 新しい歴史教科書』について、批判的に見ていこう。主に近現代史を取り上げる。

序文と内容が矛盾している

序文の「歴史を学ぶとは」に、

「歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことなのである」

(『市販本 新しい歴史教科書』6ページより)

とあるが、これ自体が危険なことかも知れない。

これは、言い換えると「過去の人はこう考えてたのだから、今の君たちもこう思わなきゃダメだよ。今の視点など必要ないのだ」と言いたいのではないか? そうすると、「過去の日本人は、天皇が行う戦争は『聖戦』であり、侵略戦争じゃないと考えたんだね。だから私もそう思う」と言う子どもが出てくるはずである(最初からこれが目的としか思えない)。これでは、歴史を学ぶということにはならない(「未来の視点」で歴史を見られないから、戦争の反省が無い!)。

「過去の人はそれが正しいと考えたのだね。でも、今の視点ではそれは間違いだったのだ。間違いを繰り返さないようにしなければ」ということに気付かせたりするのが、歴史教育なのでは。「過去の人の考えを知ること」自体はいいが、「その先」(未来の視点)が無ければ意味がない。同じ過ちを繰り返すことになってしまう。

それと、

「歴史を学ぶとは、今の基準から見て、過去の不正や不公平を裁いたり、告発することと同じではない」

(『市販本 新しい歴史教科書』6ページより)

とか、

 「歴史に善悪を当てはめ、現在の道徳で裁く裁判の場にすることもやめよう」

(『市販本 新しい歴史教科書』7ページより)

とも書かれているが、そのわりには「東京裁判」に関しては

「今日、この裁判については、国際法上の正当性を疑う見解もあるが(以下略)」

(『市販本 新しい歴史教科書』295ページより)

と、「今日(こんにち)の視点」で書かれていたり、「日本国憲法」についても「あれはGHQの押し付けだった」(今の右派の人も同じことをよく言うが、日本人も憲法制作に関わったのだから、押し付けではないだろう)という「後付の論」を展開している(291~292ページ)のは矛盾している。

「歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことなのである」、「歴史に善悪を当てはめ、現在の道徳で裁く裁判の場にすることもやめよう」と言うなら、「東京裁判は、当時の人は正しいと考えたのだから、受け入れよう」、「日本国憲法は、当時の人は作られて良かったと思っていたのだから、今も日本国憲法があることをありがたく思おう」、「GHQが『日本の戦争は悪かった』と言ったのも、当時は正しいと思われたのだから、それでいいだろう」と書かないとおかしいだろう。

神話を本当のように書く

これは批判本でもよく言われているが、「神武天皇の東征伝承」(『古事記』、『日本書紀』に出てくる)などを、「言い伝えである、伝承である」と断りつつも詳しく載せている(ちなみに「神武天皇の東征伝承」のところには「八咫烏」(ヤタガラス)も出てくる!)のは、「神話と史実をごちゃ混ぜにしている」と言える。

個人的には、神話をここまで多く「歴史教科書」に載せるものではないと考えている。「好きな人だけ、文学として読めばいい」という扱いでかまわないと思うが。

また、『古事記』と『日本書紀』自体が、「天皇を『神』にするため」、さらに「天皇が日本(及び近隣国)を支配するのは正しいと言うため」、「天皇に反逆する者は、武力で従わせればよいと教えるため(「神武東征伝承」はまさにそれ)」に、古代の神話を取り入れて編纂されたものである(つまりある種の「元祖歴史修正(改竄)本」なのかも)ことも考慮すべきだ。単なる「伝承・神話」ではないのだ。

ちなみにこの『新しい歴史教科書』を受け継ぐ『市販本 新しい歴史教科書 改訂版』(2005年発売。2006年度使用開始。以下『改訂版』)と、『日本人の歴史教科書』(2009年発売。2010年度使用開始の『新編 新しい歴史教科書』の市販本)の「神武天皇の東征伝承」では、「八咫烏」(ヤタガラス)が「日本サッカー協会のシンボルマーク」として使われていることも、写真付きで紹介されている。

戦争を美化・戦争協力者を褒める・自衛戦争だと書く・日本の加害を少なく書く

これもよく言われるが、戦争を美化したり、日本の加害はあまり書かなかったり、本当は「侵略戦争」なのに「日本の自衛のためだった、アメリカなど他国のせいだ」と書いているのは問題だ。特にいちばん違和感を覚えるのは、第二次世界大戦について

「だが、このような困難の中、多くの国民はよく働き、よく戦った。それは日本の勝利を願っての行動であった」

(『市販本 新しい歴史教科書』284ページより)

と書かれている箇所である。

「日本の勝利を願い、よく働き、よく戦った」国民ばかりではない(「日本は負ける」と予見した人も居たし、戦争に反対して捕まった人たちも居る!)というのが事実なのだが。そういうことは言いたくないのだな。

戦争を美化するため、「戦争に協力した国民」だけを褒め称えたい、戦争に非協力的であった「非国民」(当時はそう呼ばれた)は取り上げたくない、という意図なのだろう。この箇所は、『改訂版』と『日本人の歴史教科書』でも一緒である。

「アジア・太平洋戦争」を「大東亜戦争」と書く

「アジア・太平洋戦争(または「太平洋戦争」)」のことを「大東亜戦争(太平洋戦争)」と書いている。これは、「歴史修正(改竄)主義者」にありがちなことだ。「アジア・太平洋戦争」、あるいは「太平洋戦争」とはなるべく言いたくないのだろう(本当はカッコの「太平洋戦争」も削りたかったのだろう。アメリカがこう呼べと言ったことに反発しているから)。

これは、『改訂版』と『日本人の歴史教科書』でも、相変わらずだ…。これはどうにかならないのか。

これで学んだ子どもたちだけが、つい「大東亜戦争」と言ってしまい、他の教科書で学んだ子どもから「それは、アジア・太平洋戦争でしょ」と突っ込まれたら、どうするのだろう…。

ひとつ言っておくが、書店の歴史本コーナーで、タイトルに「大東亜戦争」と書かれた本は、ほとんどが「歴史修正(改竄)主義者」が書いたもの、と見ていいと思う(戦中に出版された本はいいとして、今の人が「大東亜戦争」という単語を好んで使うのは、良くない兆候)。

大日本帝国憲法は評価するが、日本国憲法は「押し付け」と言う・教育勅語を全て載せる

さっきも書いたが、現在の「日本国憲法」は「GHQの押し付け論」を展開するが(つまり、「押し付けだから廃止して、日本独自のものを作れ」とか、「憲法改正」を主張したいからだろう)、「大日本帝国憲法」(明治憲法)は高く評価している(212~215ページ)。「憲法を称讃した内外の声」というカコミ記事もある(215ページ)。

しかし「大日本帝国憲法」は「日本国憲法」とは異なり、「天皇から臣民(国民)に下賜されるもの・臣民が守らなければいけないもの」であることや、今の憲法には無い「兵役の義務」も書かれている、ということなどの「欠点」は無視して、美化しているとしか思えない。「徴兵制を復活させよう」などと主張する筆者から見れば(恐らくこの教科書の筆者の中には確実に居るだろう)、「兵役の義務も書かれている『大日本帝国憲法』は素晴らしい!」ということになるだろうけど…。

なお、その他の歴史書や『新しい歴史教科書』の批判本を参照すると、見出しの「アジアで最初の近代憲法」(212ページ)というのは誤りである。アジアで最初は「トルコ」だそうだ。さすがにこれは『改訂版』以降は変更されている。

また、「教育勅語」を、何の批判もなしに全文載せてしまうのも(215ページ)、「教育勅語を復活させたい」という意図の表れではなかろうか。実際、今でも「教育勅語は現代でも通じるから学校で使え」などという人たちも居るし…(とっくに失効してるし、通じるわけがない!)。そういえば、どこかで「教育勅語」を子どもに暗唱させていた幼稚園とかありましたっけ…。

教育勅語の問題点については、『教育勅語の何が問題か』(教育史学会編/岩波ブックレット)などの本を参照のこと。くれぐれも、「教育勅語は現代でも使える!」などと触れ込んだ本は参照されませぬよう…。

嘘の歴史を載せる

「日本の参戦」(244~245ページ)にある、「日本駆逐艦が盾となって撃沈された」という話は、実は一部以外は嘘だという。『教科書が危ない』(入江曜子著/岩波新書)、『歴史家が読む「つくる会」教科書』(歴史学研究会編/青木書店)などに書かれている。後の『改訂版』では消されている。

「日本の近代の戦争はすべて自衛」、「日本国憲法はGHQの押し付けだった」というのも、嘘だ。さっきも書いたが「アジアで最初の近代憲法」というのも嘘だし。

批判本などによれば、他にも「明らかな嘘を書いているページ」は複数あるという(近現代より前の時代の記述も含めて)。

つくる会の人は、「『南京大虐殺』などは捏造です」とか言うけれど、自分自身が嘘の歴史を書いているじゃないか…。

ちなみに「南京大虐殺」については、ほんの少し書いてある程度(本来は全く書かないつもりだったが、検定意見が付いたために仕方なく書いたということだ)。「731部隊」、「日本軍『慰安婦』」(「従軍『慰安婦』」)については一切触れていない。「つくる会」の彼らからすれば、どうしても触れたくない歴史だからだろう。

天皇(支配者)と「天皇にまつろう者」中心で書かれている

これもよく批判本にあるが、やはり全体を見ると、「天皇(支配者)中心、天皇に従う者中心」の、戦前と戦中の教科書にあった「皇国史観」をさらに発展させたものである、と考えている。このような「古めかしい歴史観・排外主義的な歴史観」は、二十一世紀の教科書に使うものではない。

私が見た中で、いちばん違和感があるのは、「昭和天皇――国民とともに歩まれた生涯」という人物コラムページである(306~307ページ)。昭和天皇を褒め称えるばかりで、戦争責任について追求するような記述は無い。本当に昭和天皇は「国民とともに歩んだ」と言えるのだろうか。単なる「天皇好き」な執筆者の思い込みではなかろうか。

『改訂版』でも、「昭和天皇」を大きく取り上げて褒めているところは変化なし。さらに『日本人の歴史教科書』になると、「昭和天皇のお言葉」を一ページも使って紹介している…。改定を重ねるごとに、天皇絶賛度は高くなっているような気がする。

日本スゴイ史観としか言えない

「日本は昔から素晴らしい! 日本の芸術スゴイ! あらゆるものがスゴイ! しかし他国(特に日本以外のアジア)は昔からダメ! 劣っている! 鈍い!」と思わせようとする記述は、古代から近現代まで、あちこちに見られる。これでは「自由主義史観」というよりは、「日本だけがスゴイ史観」としか言えないだろう。これで学んだ子どもが「日本だけがスゴイんだね、他の国は劣ってるんだね」ばかり言うようになるのは問題だろう。他民族への差別に繋がりかねない。

今、「日本スゴイ番組・日本スゴイ本」が巷に溢れているのは、実はこの教科書が原因…? というのは、穿ちすぎだろうか。だって、作りが良く似てるもの。

日本(自国)中心すぎて、内向き・右派向きの歴史観である

どの国の教科書もある程度は自国中心になるものだが、『新しい歴史教科書』ではそれが行き過ぎていて、「非常に内向きで閉じた歴史観、右派の愛国日本人向けの歴史観」であるとしか思えない。さっきの「日本スゴイ史観か」とも重なるが、「他国は日本のやったことを素晴らしいと褒めた」という記述が目立つ。

※追記

『史実が示す 日本の侵略と「歴史教科書」』(吉岡吉典著/新日本出版社)の168~170ページなどを読んでいて気付いたが、この「他国の人が、日本がしたことを素晴らしいと褒めた」箇所に関しても、大半は「その人の発言の中で、日本に都合のいいところだけ切り取って紹介している」に過ぎないのではないか、と思われる。

反米・反欧米列強史観か?

「欧米列強の脅威」(184ページ)とか、「アメリカの排日政策に抗議する日本人」の写真(258ページ)、「白船事件」(258~259ページ)など、「アメリカは日本人に対してこんなに悪いことをしてきた、と強調する」箇所や、「欧米列強の脅威をことさら強調する」箇所が目立つ。

これで、「アメリカは日本人に対して悪いことをしてきたのだから、日米戦争はやむを得なかった」と言いたいのだろうか。

『改訂版』では、「白船事件」などは削られている。

関東大震災後の「朝鮮人虐殺」の書き方に問題がある

関東大震災後に起こった「朝鮮人虐殺」については一応触れているが(本当は書きたくなかったようだが、検定後に追加されたものらしい)、このように書かれている。

「この混乱の中で、朝鮮人や社会主義者の間に不穏なくわだてがあるとの噂が広まり、住民の自警団などが社会主義者や朝鮮人・中国人を殺害するという事件がおきた」

(『市販本 新しい歴史教科書』256ページより)

これもよく批判されているが、「自警団などが」 としか書かれていないのはおかしい。「軍や警察も事件に関わったこと」は隠したいというのがよく分かる。「日本の権力者と天皇と日本軍を悪く描きたくない、美化したい」、というのがこの教科書のコンセプトだからだろう。また、具体的にどれくらいの人が殺されたか、ということは書かれていないし、「殺害するという事件」とはあるが、「虐殺するという事件」とは書いていない。

『改訂版』と『日本人の歴史教科書』もだいたい同じである。

でもきっと本音では、「朝鮮人虐殺は無かった」と書きたかったに違いない(今でも、こんなこと言ってる歴史修正好きの人たちが居るからね…。ネットで検索してみると…)。

※追記

『「つくる会」教科書はこう読む! 隠された問題点の数々』(上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣著/明石書店)の58~59ページによると、検定前の段階では「関東大震災」自体記述していなかったという! これが本音だったのか…。

GHQをやたらと敵視している

「日本国憲法はGHQの押し付け論」にしてもそうだが、他にもGHQを敵視するような文が見られる。例えば…。

「GHQは、新聞、ラジオ、映画を通して、日本の戦争がいかに不当なものであったかを宣伝した。こうした宣伝は、東京裁判とならんで、日本人の自国の戦争に対する罪悪感をつちかい、戦後日本人の歴史の見方に影響を与えた」

(『市販本 新しい歴史教科書』295ページより)

これについても、一面的な見方しかしていないのでは…。別にGHQが宣伝しなくても、「あの戦争は間違いであった」と自ら気付く日本人も居ただろう。どうしても「GHQのせいで戦後の日本と日本人はダメになった! マッカーサーとGHQは悪者!」ということにしたいらしい。GHQが「日本の戦争がいかに不当なものであったかを宣伝」したというが、実際不当だったんだからしょうがない、としか言えない。

そもそも「戦後の日本と日本人はダメになってしまった論」自体が、単なる執筆者の思い込みに過ぎない。

この「GHQ敵視」は、『改訂版』と、『日本人の歴史教科書』でも変わりはないようだ。

日の丸・君が代を詳しく解説するが、侵略の象徴とは書かない。「国旗・国歌法」を批判しない

「日本の国旗と国歌」(186~187ページ)に、「国旗・国歌法」(1999年成立)についてと、やたらと詳しく「日の丸・君が代」の由来を載せているが、この旗と歌が「日本の侵略戦争の象徴」でもあることには一切触れていない。「日の丸を見ると戦争を思い出す」、「君が代を聞くと戦時中の悪夢が蘇る」と言う人々(特にかつて「日本が植民地支配した国」の人々)も居る、ということは書かないわけね…。

「日の丸・君が代に愛着を持つ子どもを育てよう」という意図があるからだろう。しかし、「どうしても日の丸・君が代を受け入れない子どもも居る」ことは考慮していない。

国旗・国歌法の問題点に関しても一切書いていない。この法案に反対・抵抗した人々のことすらも…。「国家に立ち向かう反抗者・反逆者はあまり描かない」か、「そういった者は悪者として描く」のが、この教科書らしいところだ。

最後の文について

最後に「歴史を学んで」という結びページがある。この中にこうある。

「戦後、日本人は、努力して経済復興を成し遂げ世界有数の地位を築いたが、どこか自信がもてないでいる。(中略)残念ながら戦争に敗北した傷跡がまだ癒えない」

(『市販本 新しい歴史教科書』319ページより)

「どこか自信がもてないでいる」というのは、これも単なる執筆者の思い込みに過ぎないと思うが。別に世の中「自信が無い日本人」ばかりでもなく、自信のある日本人も大勢居るのではないか。これでは、「日本人ってみんな自信が持てないんだ」と子どもに植え付けてしまうんじゃ…。

「戦争に敗北した傷跡が…」にしても、「もう一回戦争して勝たなければ! だから日本にも軍隊が必要だ! 日本を『戦争が出来る国』にしよう!(実際、今はそうなってしまった…、と言えるが)」と主張したかったのでは…

この結びの文は後の『改訂版』と、『日本人の歴史教科書』でもそれほど変化は無い。

まとめ

これを読んだ感想としては、「一見、普通の教科書に見えるが、批判本でもよく言われるように、これで『何度も繰り返し学ぶ』のは、子どもたちには危険だ」である。批判本によれば、これでも「検定前のもの」よりはだいぶマシになっているらしいが、とすると「検定前のもの」はもっと危うかったのだろう。やはり、「日本に都合のいい歴史しか子どもに教えないこと」は良くない。

それと、嘘や間違いも多いし、個人の強い偏見と思い込み(特に右派の思想家らしい思い込み)だけで書いているところが多い点も、「中学生向けの歴史教科書」としては相応しくないだろう。中学生を偏った人間に育てたいのか。

当時の「つくる会」の人たち(現在は離脱した人も含めて)の主張は、今でも歴史修正(改竄)主義者がよく言う「歴史教科書には、日本の過去を悪く書くな」ということなのだが、「悪く書くな」も何も、「本当に過去の日本がやってきたことは悪かったから(特に「侵略戦争」をしたこと)、悪く書くのは当然だろう」、としか言えない。

大人であれば、この本や「つくる会」メンバーの主張の危険性は分かると思うが、中学生はそのまま信じてしまうのではないか。どこが危険か分からない大人も居るかも知れないが。

とは言え、これで学んでいた子どもたちも、今はもう大人になっているのだろう。この人たちがどのような歴史観を持っているのかは、気になるところだけど…。

引用・参考文献(※追加あり)

  • 「市販本 新しい歴史教科書」(西尾幹二代表執筆者/扶桑社)
  • 「市販本 新しい歴史教科書 改訂版」(藤岡信勝代表執筆者/扶桑社)
  • 「日本人の歴史教科書」(「日本人の歴史教科書」編集委員会編/自由社)
  • 「あぶない教科書NO! もう21世紀に戦争を起こさせないために」(俵義文著/花伝社)
  • 「歴史家が読む『つくる会』教科書」(歴史学研究会編/青木書店)
  • 「新版 ここが問題『つくる会』教科書 歴史・公民教科書批判」(子どもと教科書全国ネット21編著/大月書店)
  • 「歴史教科書をどうつくるか」(永原慶二著/岩波書店)
  • 「『自由主義史観』批判 自国史認識について考える」(永原慶二著/岩波ブックレット)
  • 「とめよう!戦争への教育 教育基本法『改正』と教科書問題」(高橋哲哉・俵義文・石山久男・村田智子執筆/子どもと教科書全国ネット21編/学習の友社)
  • 「教科書が危ない 『心のノート』と公民・歴史」(入江曜子著/岩波新書)
  • 「<つくる会>分裂と歴史偽造の深層 正念場の歴史教科書問題」(俵義文著/花伝社)
  • 「こんな教科書子どもにわたせますか 『つくる会』の歴史・公民教科書批判」(子どもと教科書全国ネット21編/大月書店)
  • 「歴史研究の現在と教科書問題 『つくる会』教科書を問う」(歴史学研究会編/青木書店)
  • 「すっきり!わかる歴史認識の争点Q&A」(歴史教育者協議会編/大月書店)
  • 「徹底検証 あぶない教科書 『戦争ができる国』を目指す『つくる会』の実態」(俵義文著/学習の友社)
  • 「…こどもがききました 日本は朝鮮になにをしたの シリーズ・いま伝えたい1 朝鮮侵略」(映画「侵略」上映委員会編/明石書店)
  • 「日の丸・君が代50問50答」(歴史教育協議会編/大月書店)
  • 「日本は過去とどう向き合ってきたか 【河野・村山・宮沢】歴史三談話と靖国問題を考える」(山田朗著/高文研)
  • 「『日本スゴイ』のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(早川タダノリ著/青弓社)
  • 「ビギナーズ 日本国憲法」(角川学芸出版編/角川ソフィア文庫)
  • 「徹底解剖 安倍友学園のアッキード事件」(佐高信編/七つ森書館)
  • 「日韓共通歴史教材 学び、つながる 日本と韓国の近現代史」(日韓共通歴史教材製作チーム編/明石書店)
  • 「日本近現代史を読む」(宮地正人監修・大日方純夫・山田朗・山田敬男・吉田裕著/新日本出版社)
  • 「教育勅語を読んだことのないあなたへ」(佐藤広美+藤森毅著/新日本出版社)
  • 「教育勅語の何が問題か」(教育史学会編/岩波ブックレット)
  • 「もういちど読む 山川日本近代史」(鳥海靖著/山川出版社)
  • 「あらすじとイラストでわかる古事記・日本書紀」(知的発見!探検隊著/文庫ぎんが堂)
  • 「現代語訳 古事記」(福永武彦著/河出文庫)
  • 「教科書」 (山住正己著/岩波新書)
  • 「『つくる会』教科書はこう読む! 隠された問題点の数々」(上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣著/明石書店)
  • 「史実が示す 日本の侵略と『歴史教科書』」(吉岡吉典著/新日本出版社)