ろーだいありー

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「さよなら!大沼“絶望”先生」!?

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「女性のためのアジア平和国民基金」(以下「国民基金」)の中心人物だった大沼保昭氏(2018年逝去)に関するネット記事を二つ紹介したが、もう少し検索するとさらに興味深いものがあったので紹介しておこう。生前の大沼氏の活動に関する記事なのだが…。

 

blogos.com

 

要約すると、秦郁彦氏(「慰安婦の強制連行は無かった」といった説を唱える右派歴史家。大沼氏とは元々知り合いであるようだが)の会見に大沼氏が同席したという話(長谷川三千子高橋史朗まで居る!)。秦氏の話が本当か嘘かは今回は問わないとして、問題なのは「かつて右翼と同じ立場から“国民基金”を批判した秦氏の会見(いわば「日本軍『慰安婦』問題に関する歴史修正(改竄)主義」会見)に、なぜ“国民基金”を称讃する元関係者の大沼氏が同席しているのか」ということだ。

大沼氏は晩年、あまりの「韓国憎し」と「国民基金擁護」にとりつかれて、秦氏など右派と仲良くなって、ついに右翼・ネット右翼に転じてしまったのか? 元々ナショナリストっぽいとは薄々気づいてはいたのだけどね(これは後述する)。

大沼氏は、「国民基金」を評価する韓国人が増えることを死ぬまで願っていたのだろうが、この様子が韓国に知れたら(っていうか2015年の出来事なので、もうとっくに世界中に知られていると思うけど)、ますます「国民基金」批判者を増やすだけだろう。仮にも「国民基金」の元・中心人物で、「自らの功績」(客観的に見れば大した成果はあげてないし、むしろ遺恨を残した部分が多いとは思うが)を自画自賛したい人が、なぜこういう行動を取ったのか。「国民基金の重要人物だった大沼氏は、ついに基金批判派の右派・秦氏らと友達になって、日本軍『慰安婦』に関する歴史の改竄を始めたのか? こんな人の作った基金など誰が評価するか!」と言われてもおかしくはない(日本でも韓国でも)。この記事中でも、大沼氏は著書と同じく、相変わらず「日本のやったことは正しい、理解しない韓国などがおかしい、メディアのせい」とか繰り返し言ってるようだし。

「元『慰安婦』女性(以下は「被害女性」とする)を救いたい」と長年言っていた大沼氏が、「日本軍『慰安婦』制度の嘘」などと平気で被害女性を傷つけることを言う秦氏の隣に居て、反論もしてないとすれば、「きっと秦氏の意見を黙認しているだろう。かつて“国民基金”に関わって被害女性を救いたいとか言ってた人が、むしろ被害女性を愚弄・侮辱するようになったのか…」と思われても不思議ではないだろう。

だが、穿ちすぎかも知れないが、この会見には何か隠された意図があるのかも知れない。秦氏に日本軍「慰安婦」問題を「矮小化」してもらい(「強制連行は無い、人数は少ない、少女より成人女性が多い、日本兵による『慰安婦』殺害は無い」など)、それによって日本軍「慰安婦」のイメージを変え、結果的に「国民基金」の評価を上げよう、というような。

何にせよ、大沼氏は基金に関わったために最期まで右翼・左翼、右派メディア・左派メディア、フェミニスト・アンチフェミニスト、基金反対の評論家、被害女性支援グループ、国内外の基金反対派の一般人からずっと批判され続けてきたわけで(もちろん彼亡き今も賛否あるだろう)、最終的には保身のため(と身内・支持者のため)に自己弁明と、基金の自画自賛しかできなくなったのかも…と考えると、いくらか同情はするし、哀れだとは思う。だがそれでも、私があえて「国民基金」全面否定派の立場を取るのは、基金を手放しで絶賛する人々が少数でもずっと残るのならば、全面否定派も居なければバランスが取れないと思うから。

なお、大沼氏がナショナリストっぽいと思うのは、著書にこんな言葉があることなどが理由。

 戦後の日本国民は、平和で、豊かで、安全で、貧しい国に多額の援助を与えるという、世界に誇りうる国家を創り上げてきた。わたしたちは傲慢であってはならないが、国際社会で十分胸を張って生きていけるはずだ。日本国民が正当な誇りをもって生きていくためにこそ、国民全体の戦後責任への取り組みが必要なのだ。(後略)*1

…日本が豊かな国で、世界に誇りうる国家かどうかはさておき(ほとんど「日本スゴイ本」の書き方である)、やはり私が思うに、大沼氏は「日本人の誇りを取り戻すために戦後責任問題・歴史問題(日本軍「慰安婦」問題も含む)を解決しなくてはいけない」と思っているようだ。だが、これが先に来てしまうと、「被害女性の救済・名誉回復」が二の次になる。「国民基金」が失敗したのは、優先順位が違ったから、とも考えている。それに前も言ったが、「日本人の誇りを取り戻す」といった言葉は、右翼・歴史修正(改竄)主義者・保守政治家・安倍首相・嫌韓の人なども言ってるわけで、根本的な思想は彼らと共通しているのかも知れない。

その根拠のひとつとして、歴史修正(改竄)主義の本『市販本 新しい歴史教科書』(西尾幹二代表執筆者/扶桑社)から引用する。

(前略)戦後、日本人は、努力して経済復興を成し遂げ世界有数の地位を築いたが、どこか自信をもてないでいる。

本当は今は、理想や模範にする外国がもうないので、日本人は自分の足でしっかりと立たなくてはいけない時代なのだが、残念ながら戦争に敗北した傷跡がまだ癒えない。

(中略)

何よりも大切なことは、自分をもつことである。(後略)*2

「日本人は経済復興を成し遂げ世界有数の地位を…」といったところは大沼氏の文と似ている。

大沼氏は「日本人が誇りを持って生きていくために戦後責任に取り組むべき」と説く。こちらでは「日本人が自信を持って、自立して生きていくためには戦争の傷跡を癒すことが必要」と説いているように思える。根本的な部分は同じだと感じた。ただ、その方向性が違うということ。大沼氏は「日本人の誇りを取り戻すために、日本軍『慰安婦』問題を解決したい」と言っているのであり、『新しい歴史教科書をつくる会』の人たちは「戦争の傷跡を癒し日本人に自信を持たせるためには、日本軍『慰安婦』などは無かったことにしてしまえばよい」と言っているのだ。

参考・引用文献

  • 『「慰安婦」問題とは何だったのか メディア・NGO・政府の功罪』(大沼保昭著/中公新書)
  • 『市販本 新しい歴史教科書』(西尾幹二代表執筆者/扶桑社)
  • 『歴史と責任 「慰安婦」問題と一九九〇年代』(金富子・中野敏男編著/青弓社)
  • 『慰安婦問題の解決のために アジア女性基金の経験から』(和田春樹著/平凡社新書)
  • 『「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて』(大沼保昭著 聞き手・江川紹子/中公新書)

*1:『「慰安婦」問題とは何だったのか メディア・NGO・政府の功罪』(大沼保昭著/中公新書)7ページ

*2:『市販本 新しい歴史教科書』(西尾幹二代表執筆者/扶桑社)319ページ