ろーだいありー

PS2ソフト『デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団』の考察記事、ゲームプレイ記録、コレクション写真など。

シリーズ記事「『超國家機関ヤタガラス』はなぜ怖ろしいのか?」・第十三回目

(※画像はイメージです)

シリーズ 「超國家機関ヤタガラス」はなぜ怖ろしいのか?

・第十三回目「穢れの神ヤソマガツを倒すことの意味と、戦争の描写の問題、その他第拾弐話の問題点」

はじめに

※このブログは、『女神転生(メガテン)』ファンの個人による非営利ブログであり、発売元のゲームメーカー様とは一切関わりありません。予めご了承ください。

※この記事は2023年10月31日に加筆・修正・訂正済み。

 

このシリーズ記事は、アトラス社が2006年にプレイステーション2専用ソフトとして発売したRPG『デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団(Devil Summoner: Raidou Kuzunoha vs.the Soulless Army)』(以下『超力兵団』。『メガテン』シリーズの一種。現在は絶版)に登場する架空組織「超國家機関ヤタガラス」(以下ヤタガラス。極右思想・天皇崇拝思想を持つ)を徹底的に批判すること、『超力兵団』の問題点を暴き出すこと、この『葛葉ライドウ(Raidou Kuzunoha)』シリーズは一切封印すべきである(特に『超力兵団』に関して)と訴えることを目的としたものである。なぜこのシリーズ記事を書くのかと、このゲームの概要については、前回までの記事を参照のこと。前回記事はこちら。

lucyukan.hatenablog.com

第十一回目、第十回目、第九回目はこちら。

lucyukan.hatenablog.com

lucyukan.hatenablog.com

lucyukan.hatenablog.com

第八回目までの記事はこちらのリンク集からどうぞ。

lucyukan.hatenablog.com

この記事は、「日本の右派による歴史捏造主義に徹底して対抗する」立場、「天皇制は差別制度であり、昭和天皇には戦争責任がある」と考える立場から書いている。

ただし、私はいかなる宗教団体・政治団体・市民活動団体・右翼団体・左翼団体などとは一切関わりを持っていないこともお断りする。また私は、右翼・左翼・極左・極右・保守・リベラルのどれにも属していない。

この記事にはゲームの「ネタバレ」も多く含むので注意。

また、このゲームをプレイされていない方には理解出来ないであろうことは、お断りしておく。

この記事で『超力兵団』に関わる事柄は、主にゲームソフト『超力兵団』と、付属の説明書・公式攻略本・公式設定資料集を元に書いたものであり、この作品を題材とするメーカー公認のコミカライズ、ノベライズ、ドラマCDなどは一切参照していないことも予めお断りする。

TOPに戻る

今回のテーマ

今回のテーマは、引き続き「『超力兵団』の最終話である第拾弐話(第十二話)・『人の想い 心の絆』を読み解く」企画の第四弾として、「穢れの神ヤソマガツを倒すことの意味と、戦争の描写の問題、その他第拾弐話の問題点」とする。第拾弐話について詳しくは第九回目~第十二回目の記事を参照のこと。

TOPに戻る

ヤソマガツとは何か?

第拾弐話では、最終ダンジョン「アカラナ回廊」の最深部にて「伽耶に憑きし者」を倒した後、戦艦に変形する巨大ロボット「超力超神ヤソマガツ」(以下ヤソマガツ)と戦うことになる。ここでは、「ヤソマガツ」という最終ボスの名前が持つ意味について考えてみたい。

その前に、ヤソマガツには「オオマガツ」という兄弟ロボットが居ることにも注目してもらいたい。オオマガツは第拾話で暴れ出して帝都を破壊したが、第拾壱話で機能停止する。

ヤソマガツとオオマガツの元ネタは『古事記』に登場する「穢れの神」のことである。

黄泉の国へ行って帰って来たイザナミが「穢れを祓うために」体を洗った時に生まれたのがこの神で、「オオマガツヒ」(大禍津日神)、「ヤソマガツヒ」(八十禍津日神)とも言う。

穢れの神の名を持つロボットを、日本と大正天皇を守護する組織・ヤタガラスに仕えるライドウが倒す…、というのがこのゲームの結末であるわけだが、これには深い意味が隠されていると思う。まずはこれについて解説したい。

TOPに戻る

ヤソマガツを倒すことに隠された意味

以前から書いているように、このゲームの世界では『古事記』が現実化しており、「天孫降臨」が本当にあったことにされ、神武天皇も実在したことになっている(つまり「天皇は神の子孫」という説が本当になっていることに…)。そしてライドウはヤタガラスに仕える身である(一応「協力関係」とはなっているがヤタガラスには逆らえないのだから事実上はヤタガラスの配下である)。

そのライドウが「穢れの神の名を持つロボットを倒し、日本を救う」のは「神の子孫である天皇の力で穢れを祓い、日本を浄化する」ことのメタファーだと思っている。アカラナ回廊へ行く時に、神道と関わる道具「天津金木」を用い、「トホカミエミタマ~」*1などという祝詞(神道に関わる)を唱えるのも、「天皇の力でアカラナ回廊への扉が開かれた」ことの暗示と思える。神道に関わるものはすべて天皇家と繋がっているので。

さらに言うと、天皇を守護する者が「穢れの神の名を持つ破壊をもたらすロボット」を倒して、大日本帝国の首都と臣民を救うのは「日本と臣民は天皇によって導かれるのが正しい道である」という右翼好みの思想が隠されているのでは無かろうか。『超力兵団』は天皇守護のヤタガラスを味方にしているため、必然的に「天皇中心の世界観・歴史観」を有しているが、その上さらに「穢れの神の名を持つラスボス」を倒す展開は右翼好みであり、青少年向けゲームとしては不適切だと思う。以前も紹介した、このゲームの歴史観と妙にマッチする教科書『新しい歴史教科書』(扶桑社)にある歴史観もまた「天皇と国家中心」である。

また、日本には「天皇教*2」を信じた日本人たちが隣国を侵略した過去があるのに、それを悪びれることも無く「天皇中心の世界観・歴史観を正当化するようなゲーム」を出すことは、「かつて日本がやった戦争と植民地支配の反省をしていない」証拠だと思う。

TOPに戻る

穢れ思想の肯定に繋がる

さらにもう一つ言うと、「穢れ思想」というものは「女性や被差別部落の者などを穢れた者と見なして差別する」思想でもあるので、天皇家と繋がりを持つライドウがヤソマガツを倒すのは、天皇制による差別と迫害を意味していると考えることも出来る。それなのに、女性である伽耶を最終的に保護するのは矛盾しているのだが。

そう、天皇制があるからこそ穢れ思想も生まれるのだ。天皇家の者は高貴なもの、それ以外は平民、女性や被差別部落の人、障害者などは穢れた者としてさらに下と見なす…。その天皇制を維持する役目もあるライドウがヤソマガツを倒すのは、虐げられた者をさらに虐げる行為に見える。

最終ボスの名前に穢れの神の名前を使うことは「穢れ思想の肯定」と、「日本は天皇によって導かれるのが正しい」という右翼好みの言説を強化することにも繋がるので、良くないと思う。

TOPに戻る

戦争の描写の問題・架空戦記ものとの関係

(※画像はブログ執筆者のコレクションより。イメージです)

またアカラナ回廊で見られる「未来に起こるであろう戦争の描写」が、「日本の被害」に限られており(原爆投下、東京大空襲など)、日本軍の加害について触れられていないことは問題である。このゲームの年である1931年に起こるであろう「満州事変」について触れることも無いし。

日本軍の加害とは、例えば重慶爆撃や南京大虐殺、真珠湾攻撃や、731部隊の残酷な人体実験、沖縄戦での「日本軍の軍人による、市民に対する集団自決強要」などだが、それらは無かったことにしたいという製作者の願望や、日本の加害史を描くと怒る日本人への配慮なのであろうが、私はこれらも入れるべきであったと考えている。

また以前も書いたように、東京大空襲と原爆投下を招いたのは、戦争を始めてなかなか終わらせようとしなかった(「国体護持」にこだわったため)天皇*3の責任であるのに、天皇を守護するヤタガラスとそれに仕えるライドウの責任について全く触れないのもおかしい。製作者の中では戦争とは「自然災害のように突然降って来たもので、日本は被害者だ」という意識しか無いのだろう。実際のところは日本が勝手に戦争を始めて、そして負けたわけだが。

また、このゲームの大日本帝国はロケットやロボットなどが出てくることからも明らかだが「現実よりも科学力が高い」設定になっているわけだけど、これには「高い科学力がこの頃の日本にあれば、日本は戦争に勝てたのに」という製作者の願望が隠されていると思う。なので、アカラナ回廊での戦争描写も本当は「高い科学力のお陰で日本は戦争に勝った」ような描写にしたかったのかも知れない。そう、よくある「架空戦記もの」みたいに。だがそのような未来描写は青少年の歴史観を歪める恐れがあるから、史実通り日本は敗戦した描写にしたとも考えられる。

しかしどんなに科学力や技術力が高くても、「精神力で戦争に勝てると信じた」日本人の気性がある限りは、勝つことは出来なかったと思う。それに日本はアメリカにだけ負けたのでは無く、日本の支配に怒り立ち上がったアジアの人々の抵抗にも負けたのだ。だが製作者は「日本はアメリカに攻め込まれた可哀そうな国だ」としか思っていないのでは無いだろうか。第伍話で「川野定吉」から、陸軍将軍の宗像が「敵国に無敵の軍隊・ヨミクグツを送り込もうとしている」という話を聞くことが出来るが、ここで言う「敵国」がアメリカを指すのであろうことから考えればそう思える。

日本人の多くは「日本は被害国だ」としか思っていないのは事実だろうが、実際のところは戦争加害国家であった事実も認識すべきだろう。

TOPに戻る

その他第拾弐話の問題

さらに第拾弐話の問題点を言うと、アカラナ回廊に入るにはタヱと九十九博士の他、深川町に居る「反社会的勢力の男」とも話し、「天津金木」に力を蓄える必要があるのだが、これでは「本来はアウトローである反社の者が日本国家を救う」という矛盾した話になってしまうし、反社を美化しているようで良くないと思う。

また、前回は「日本を救うことは台湾と韓国を苦しめることだ」と書いたが、そう考えると「人の想い 心の絆」という最終話のタイトルは欺瞞に満ちていると思える。このタイトルは「人の想いが日本を救う」という意味であろうが、韓国や台湾に暮らす抗日の人々が「日本の植民地支配を終わらせて独立したい」とどんなに強く想ったとしても、抗日アジア人同士の絆が深かったとしても、ライドウが活躍し日本を護っている限りは彼らの願いは叶わないのだから、本来は「日本人の想い、愛国心の絆」とでもすべきだろう。

TOPに戻る

まとめ

では今回のまとめ。

  1. 最終ボスの「ヤソマガツ」とは本来は穢れの神の名前である。
  2. 穢れの神を倒して日本を救うのは「日本と臣民は、穢れを祓う天皇によって導かれるのが正しい道である」という右翼思想のメタファーだと思う。
  3. 穢れの神をラスボスの名前に使うのは、様々な差別に繋がる「穢れ思想」を正当化するようなものだ。
  4. アカラナ回廊の未来描写で、日本の戦争加害について一切触れていないのは問題である。
  5. 「高い科学力があれば日本は戦争に勝てたのに」という製作者の願望も感じさせるが、たとえそうだったとしても「精神論で何とかなる」という典型的な日本人の思想では勝てないと思う。
  6. 反社の者の協力によりアカラナ回廊への扉を開く展開は「反社の美化」だと思う。
  7. 「人の想い 心の絆」という第拾弐話のタイトルは、ライドウの活躍のせいで独立出来ない韓国人・台湾人の心を踏みにじるものである。

TOPに戻る

おわりに

今回は第拾弐話の問題点をいくつか書いた。これで第拾弐話についての話は終了とし、次回からはまた『超力兵団』の別の問題点について触れようと思う。

ではまた次回。

TOPに戻る

参照ゲームソフト・主要参考文献

今回の参照ゲームソフト、主な参考文献など。前回までの文献リストも参照のこと。

※すでに絶版のものもあるので、ご了承ください。

【参照ゲームソフト】

  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団(プレイステーション2/発売元・アトラス)

【『超力兵団』の本】

  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団 超公式ふぁんぶっく(ファミ通編集部責任編集/エンターブレイン)
  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団 超公式完全本(ファミ通編集部責任編集/エンターブレイン)

【日本神話・古事記】

  • 日本の神様 読み解き事典(川口謙二著/柏書房)
  • 古事記 上・中・下(次田真幸全訳注/講談社学術文庫)

【天皇家】

  • これならわかる天皇の歴史(歴史教育協議会編・岩本努・駒田和幸・渡辺賢二著/大月書店)

【アジア史】

  • 日韓でいっしょに読みたい韓国史 未来に開かれた共通の歴史認識に向けて(徐毅植・安智源・李元淳・鄭在貞著/君島和彦・國分麻里・山﨑雅稔訳/明石書店)
  • これならわかる台湾の歴史Q&A(三橋広夫著/大月書店)
  • これならわかる韓国・朝鮮の歴史Q&A 第2版(三橋広夫著/大月書店)

【『新しい歴史教科書』批判】

  • ここまでひどい!「つくる会」歴史・公民教科書 女性蔑視・歴史歪曲・国家主義批判(VAWW-NETジャパン編/明石書店)
  • いらない!「神の国」歴史・公民教科書(上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣著/明石書店)

【日本史】

  • 日本近現代史を読む(宮地正人監修・大日方純夫・山田朗・山田敬男・吉田裕著/新日本出版社)

【戦争】

  • これならわかる戦争の歴史Q&A(石出法太・石出みどり著/大月書店)

TOPに戻る

*1:天皇が唱えると言われる「トホカミエミタメ」のことだろうか?

*2:国家神道のこと

*3:その頃には昭和天皇になっているだろうが