ろーだいありー

PS2ソフト『デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団』の考察記事、ゲームプレイ記録、コレクション写真など。

シリーズ記事「『超國家機関ヤタガラス』はなぜ怖ろしいのか?」・第十四回目(最終回)

(※画像はイメージです)

シリーズ 「超國家機関ヤタガラス」はなぜ怖ろしいのか?

・第十四回目(最終回)「関東大震災が無かった、という設定の問題点」

はじめに

※このブログは、『女神転生(メガテン)』ファンの個人による非営利ブログであり、発売元のゲームメーカー様とは一切関わりありません。予めご了承ください。

 

このシリーズ記事は、アトラス社が2006年にプレイステーション2専用ソフトとして発売したRPG『デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団(Devil Summoner: Raidou Kuzunoha vs.the Soulless Army)』(以下『超力兵団』。『メガテン』シリーズの一種。現在は絶版)に登場する架空組織「超國家機関ヤタガラス」を徹底的に批判すること、『超力兵団』の問題点を暴き出すこと、この『葛葉ライドウ(Raidou Kuzunoha)』シリーズは一切封印すべきである(特に『超力兵団』に関して)と訴えることを目的としたものである。なぜこのシリーズ記事を書くのかと、このゲームの概要については、前回までの記事を参照のこと。

前回記事はこちら。

lucyukan.hatenablog.com

この記事にはゲームの「ネタバレ」も多く含むので注意。

また、このゲームをプレイされていない方には理解出来ないであろうことは、お断りしておく。

この記事で『超力兵団』に関わる事柄は、主にゲームソフト『超力兵団』と、付属の説明書・公式攻略本・公式設定資料集を元に書いたものであり、この作品を題材とするメーカー公認のコミカライズ、ノベライズ、ドラマCDなどは一切参照していないことも予めお断りする。

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今回のテーマ

今回は「ヤタガラスはなぜ怖ろしいのか」シリーズ最終回として「関東大震災が無かった、という設定の問題点」とする。

この『超力兵団』は架空の1931年*1の日本を舞台としているが、史実では1923年に起きたはずの「関東大震災」が起きていないという設定であるらしい。ゲーム上では詳しく語られることは無いが、設定資料集である『デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団 超公式ふぁんぶっく』にそれらしいことが書かれている。

また、史実では震災の影響で無くなってしまった銀座の「カフェ・パウリスタ」がモデルの「カフェ・パウリスターノ」が銀座町に存在しているのも、「震災が起きていない」と確信する点である。

しかし、この設定には問題があると思う。

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関東大震災が無かった、ということはつまり…

関東大震災が無かったことになっているのは、一見すれば「震災による多数の死者が出なかったのだから良いだろう」と思えるかもしれないが、単純にそうとは言えない事情がある。

史実では、関東大震災発生直後に「在日朝鮮人が井戸に毒を入れた」、「朝鮮人がテロを企てている」、「朝鮮人が放火した」などという人種差別的なデマが流れ、それを信じた軍隊、警察、一般人が朝鮮人虐殺*2を起こしたことは知られているだろう。

「震災が無い」とすれば、この虐殺事件も無かったことになる。それはいいことだと思うかも知れないが、私はこの設定には悪意があると思う。

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「朝鮮人虐殺は無かったことにしたい」という願望?

現実の今の日本では「日本人による朝鮮人虐殺は無かった」ことにしたいがために、「朝鮮人による犯罪や暴動があったのは事実だから、あれは虐殺ではなく正当防衛である」などとするネトウヨ的言説が一部で流行っており、そのような主張の歴史改竄本も多く出版され、日本政府でさえもそれに同調しているように思える。

この『超力兵団』の製作者も、「あのような虐殺は無かったことにしたい、それならば震災自体を無かったことにしよう」と考えたのではないのか? と私は見ている。それは善意だとは思えない。むしろ「日本の歴史を都合よく修正したい」、「日本には在日朝鮮人差別は無かったことにしたい」という悪意に見える。

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大杉栄と伊藤野枝はこの世界では生きているのかも知れないが…

震災の混乱に乗じて、アナーキストの大杉栄と妻の伊藤野枝、さらに幼い甥っ子が憲兵たちに殺害された事件も知られているが、震災が無いとするとこの二人は1931年でも存命の可能性はある。

しかし彼らは当時の政府からは敵対視されていたため、震災が無かったとしても後の時代に殺害された可能性もある。

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もはや現実の日本でも関東大震災が歴史から消えるのか?

歴史修正(改竄)主義の教科書『新しい歴史教科書』(扶桑社)では、最初に作られたバージョンでは「関東大震災自体記述が無かった」らしい*3「新しい歴史教科書をつくる会」の人たちは「朝鮮人虐殺は無かったことにしたい」ため、関東大震災自体を歴史教科書から消そうとしたのだろう。

そしてこのままだと、「虐殺事件は無かったことにしたい」、「確かに朝鮮人殺害事件はあったが、大した事件では無かったことにしたい」とする勢力のせいで、歴史教科書や歴史本から本当に「関東大震災」自体が消えてしまうのでは…、という危機感はある。これが消えてしまうと、「災害の時には人種差別的なヘイトデマが流れやすく、それを信じた者がヘイトクライムを起こす。そのようなことを繰り返してはならないという教訓すら忘れられてしまう。

震災が無かった『超力兵団』の世界では、その教訓すら存在しないまま戦後を迎えてしまうのかも知れない。その後の日本で大規模災害が起きた時、現実よりも酷いヘイトクライムが発生している可能性もあると思う。

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現代日本ではこのような設定のゲームは危うい…

先ほども書いたように、現実の現代日本では歴史修正(改竄)主義が蔓延しており、歴史改竄本も多数出版されている中では「朝鮮人虐殺は無かった」とする歴史を信じたいネトウヨ的な人たちには「震災が無い」という『超力兵団』のような設定のゲームは歓迎されるのかも知れないが、それこそが非常に危ういと思う。

このゲームの復刻、リマスター、リメイク等に反対なのはそこに危機感があるから、という理由もある。

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まとめ

では今回のまとめ。

  1. このゲームでは関東大震災が無かったことになっているが、善意と言うよりは「日本史を都合よく改竄したい」という悪意のようなものを感じる。
  2. なぜなら警察や軍隊、民衆による「朝鮮人虐殺」も無かったことになるからである。
  3. 震災が無かったため大杉栄と伊藤野枝はこのゲームの世界では生き延びているかも知れないが、後に別の事件で殺されている可能性もある。
  4. 『超力兵団』の世界の未来では、震災の教訓が無いため現実より酷い人種差別的なヘイトクライムが起きる可能性がある。
  5. 現代日本では「朝鮮人虐殺は無かった」ことにする歴史改竄本が出回っており、これを信じているネトウヨも多く居る。『超力兵団』のような設定のゲームはネトウヨにはウケるかも知れないが、そこが危ういと思う。

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おわりに

今回は「関東大震災が無かった設定の問題」について書いた。震災が無いという設定は、一見良さそうに見えても「決していいことでは無い」とお分かりいただけただろうか。

これにて「ヤタガラスはなぜ怖ろしいのか」シリーズは完結とする。

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参照ゲームソフト

  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団(プレイステーション2/発売元・アトラス)

参考文献

  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団 超公式ふぁんぶっく(ファミ通編集部責任編集/エンターブレイン)
  • デビルサマナー葛葉ライドウ対超力兵団 超公式完全本(ファミ通編集部責任編集/エンターブレイン)
  • 第2版 日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史 東アジア3国の近現代史(日中韓3国共通歴史教材委員会/高文研)
  • 九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響(加藤直樹著/ころから)
  • トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち(加藤直樹著/ころから)
  • いらない!「神の国」歴史・公民教科書(上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣著/明石書店)
  • ここまでひどい!「つくる会」歴史・公民教科書 女性蔑視・歴史歪曲・国家主義批判(VAWW-NETジャパン編/明石書店)
  • 民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代(藤野裕子著/中公新書)
  • 日韓記者・市民セミナー ブックレット1 特集 日韓現代史の照点を読む(加藤直樹・黒田福美・菊池嘉晃著/社会評論社)
  • 〈新装版〉関東大震災(姜徳相著/新幹社)
  • 関東大震災「虐殺否定」の深層――ハーバード大学教授の論拠を検証する(渡辺延志著/ちくま新書)
  • 歌う大衆と関東大震災 「船頭小唄」「籠の鳥」はなぜ流行したのか(永嶺重敏著/青弓社)
  • 関東大震災 消防・医療・ボランティアから検証する(鈴木淳著/講談社学術文庫)
  • …こどもがききました 日本は朝鮮になにをしたの シリーズいま伝えたい1 朝鮮侵略(映画「侵略」上映委員会編/明石書店)
  • すっきり!わかる歴史認識の争点Q&A(歴史教育者協議会編/大月書店)
  • カラー版 明治・大正を食べ歩く(森まゆみ著/PHP新書)

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*1:元号は「大正20年」というあり得ないものになっている

*2:中には朝鮮人に間違われた日本人、中国人も含まれる

*3:教科書検定で問題視されて市販本では記述があり、虐殺事件についてもわずかに触れている